就労ビザの取消制度
目次
はじめに
アイ・ビー飛鳥行政書士法人です。
「雇用していた外国人が突然、在留資格を取り消された。どうすればいいのか分からない」
「退職後、転職活動をしているが、このまま日本にいても大丈夫だろうか?」
「在留資格の取消制度というものがあると聞いたが、具体的にどんな場合に適用されるのか複雑で理解できない」
これらは、外国人材を雇用されている企業のご担当者様や、日本で就労している外国人ご本人から、私たちが日常的にお受けする切実なご相談です。
日本で適法に在留するためには、すべての外国人がいずれかの在留資格を持っている必要があります。しかし、一度許可された在留資格も、その後の行動や状況によっては、在留期間の満了を待たずに取り消されてしまう「在留資格取消制度」が存在することをご存知でしょうか。
結論から申し上げますと、在留資格の取消は、虚偽の申請や在留状況の不良など、特定の事由に該当した場合に、法務大臣の判断で行われる行政処分です。この制度を正しく理解していないと、意図せず違反を犯してしまい、最悪の場合、日本からの退去を命じられる可能性があります。これは外国人本人だけでなく、雇用している企業にとっても、事業計画に大きな影響を及ぼす深刻な事態です。
この記事では、日々多くのビザ申請に携わる専門家の視点から、在留資格取消制度の全体像を徹底的に解説します。どのような行為が取消の対象となるのかという具体的な事由から、取消を避けるための注意点、万が一取消の対象となった場合の手続きの流れ、そして企業側が取るべき対策まで、網羅的かつ詳細に説明します。
この記事を最後までお読みいただくことで、在留資格取消制度に関するあらゆる疑問が解消され、ご自身や、貴社で働く大切な従業員が安心して日本で活動を続けるための、具体的かつ実践的な知識を得ることができます。
就労ビザにおける「在留資格の取消」とは?
在留資格の取消制度とは、入管法第22条の4に定められている制度で、外国人が不正な手段により在留資格を得た場合や、許可された在留資格に応じた活動を一定期間行っていない場合などに、その在留資格を取り消すものです。
在留期間がまだ残っていたとしても、取消事由に該当すると判断されれば、日本に滞在し続けることができなくなります。特に、偽装滞在者や失踪技能実習生などの問題に対応するため、2016年の法改正で取消事由が追加され、より迅速な対応が可能となりました。
この制度は、日本の安全や社会的な利益を守ることを目的としており、就労ビザはもちろん、永住者の在留資格であっても適用の対象となります。
就労ビザが取り消される具体的な10のケース
在留資格が取り消される事由は、入管法第22条の4第1項に1号から10号まで定められています。これらは大きく3つのカテゴリーに分類できます。
- 虚偽・不正な手段による申請(1号~4号)
- 在留資格に応じた活動を行っていない(5号~7号)
- 住居地に関する届出義務違反(8号~10号)
それぞれについて、具体的な内容を見ていきましょう。
カテゴリー①:虚偽・不正な手段による申請
これは、入国や在留の許可を得るために、事実と異なる内容を申告したり、偽造した書類を提出したりするケースです。
- (1号)上陸拒否事由に該当するのに、それを偽って入国した場合
過去の犯罪歴などを隠し、本来であれば日本に入国できないはずの人が、不正な手段で入国許可を得たような場合が該当します。 - (2号)行う活動を偽って入国した場合
本当はレストランで単純労働をする目的であるにもかかわらず、大卒の経歴を活かして通訳業務を行うと偽って「技術・人文知識・国際業務」のビザを取得した、といったケースがこれにあたります。経歴を偽って申請した場合も同様です。 - (3号)虚偽の書類を提出して入国した場合
上記(1)(2)以外で、申請内容に悪意はなかったとしても、結果的に虚偽の書類(卒業証明書や在職証明書など)を提出して許可を受けてしまった場合です。申請者に故意があったかどうかは問われません。 - (4号)不正な手段で在留特別許可を受けた場合
オーバーステイ(不法残留)の状態から、何らかの特別な事情を訴えて日本での在留を認めてもらう「在留特別許可」を、虚偽の申告などによって不正に受けた場合です。
これらの事由に該当する場合、悪質性が高いと判断され、後述する**「退去強制」処分**に直結する可能性が非常に高くなります。
カテゴリー②:在留資格に応じた活動を行っていない
許可された在留資格の活動を、正当な理由なく行っていない場合に適用されます。就労ビザを持つ外国人や、その雇用企業にとって最も関係が深いカテゴリーです。
- (5号)許可された活動を行わず、別の活動を行っている場合
「技術・人文知識・国際業務」のビザを持つエンジニアが、会社を辞めた後、エンジニアとしての活動は一切せず、知人の飲食店でアルバイト(資格外活動)のみを行っているようなケースです。この場合、3ヶ月を待たずに取消の対象となる可能性があります。 - (6号)許可された活動を継続して3ヶ月以上行っていない場合
これが最も一般的な取消事由の一つです。例えば、勤務していた会社を退職した後、転職活動などの「正当な理由」なく、3ヶ月以上にわたって就労していない状態が続くと、在留資格取消の対象となります。「在留期間がまだ1年以上残っているから大丈夫」ということにはなりません。 - (7号)「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」の人が、配偶者としての活動を6ヶ月以上行っていない場合
就労ビザとは異なりますが、関連知識として重要です。日本人と結婚して配偶者ビザを得た人が、離婚や死別後、再婚などの具体的な活動をせずに6ヶ月以上経過した場合などが該当します。
カテゴリー③:住居地に関する届出義務違反
中長期在留者(3ヶ月を超える在留資格を持つ外国人)には、住居地を出入国在留管理庁長官に届け出る義務があります。これを怠った場合も取消の対象です。
- (8号)新規入国後、90日以内に住居地を届け出なかった場合
新たに日本に入国し在留カードの交付を受けた後、市区町村の役所で住民登録の手続きを90日以内に行わなかったケースです。 - (9号)引っ越し後、90日以内に新しい住居地を届け出なかった場合
引っ越しをした場合、14日以内に転入届(または転居届)を役所に提出する必要がありますが、これを怠り、前の住所地のまま90日以上経過してしまった場合が該当します。 - (10号)虚偽の住居地を届け出た場合
実際には住んでいないアパートの住所を届け出るなど、虚偽の申告をした場合です。
これらの住居地に関する届出は基本的な義務ですが、失念してしまうケースが散見されるため、特に注意が必要です。
取消の対象にならない「正当な理由」とは?
前述のカテゴリー②(活動を行っていない場合)において、活動を行っていないことに**「正当な理由」**があれば、在留資格は取り消されません。この「正当な理由」に該当するかどうかが、非常に重要なポイントとなります。
具体的には、以下のようなケースが「正当な理由」として認められる可能性があります。
- 退職後の具体的な転職活動
会社を辞めた後、ハローワークに登録したり、転職エージェントと面談したり、企業の採用面接を受けたりするなど、次の就職先を探すために客観的に見て具体的な活動を行っている場合。 - 病気やケガによる療養
本人が病気やケガで長期間の入院・療養が必要となり、働くことができない場合。 - 会社の倒産やリストラ
勤務先の倒産や経営不振による解雇など、本人の意思に反して職を失い、次の仕事を探している場合。 - その他人道的な配慮が必要な場合
離婚調停中である、災害で被災した、新型コロナウイルス感染症の影響で再就職先が見つからないなど、個別の事情に応じて総合的に判断されます。
重要なのは、「何もしていない」状態を避けることです。もし退職後に活動できない期間が生じる場合は、その理由を証明できる資料(病院の診断書、ハローワークの登録カード、面接を受けた企業とのメールなど)を保管しておくことが、万が一の際に身を守ることに繋がります。
近年の在留資格取消の動向
法務省の発表によると、在留資格の取消件数は年々増加傾向にあります。2020年のデータでは、取消件数は1,210件にのぼりました。
| 在留資格 | 取消件数 | 割合 |
|---|---|---|
| ① 技能実習 | 561件 | 46.4% |
| ② 留学 | 524件 | 43.3% |
| ③ 技術・人文知識・国際業務 | 29件 | 2.4% |
| その他 | 96件 | 7.9% |
在留資格別に見ると、「技能実習」と「留学」で全体の約9割を占めています。これは、技能実習生が失踪して別の場所で不法就労するケースや、留学生が学業そっちのけでアルバイトに専念する(資格外活動違反)ケースが多いことを示しています。
また、取消事由別に見ると、以下のようになっています。
| 取消事由(入管法第22条の4第1項) | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 第5号(許可なく別の活動) | 616件 | 50.9% |
| 第6号(活動せず3ヶ月経過) | 493件 | 40.7% |
| その他 | 101件 | 8.4% |
このデータから、「在留資格に応じた活動を行っていない」という事由が、取消全体の9割以上を占めていることが分かります。これは、就労ビザで働く外国人にとっても決して他人事ではないことを示しています。
もし在留資格が取り消されたらどうなる?
在留資格の取消事由に該当する疑いがある場合、手続きは以下のように進みます。
- 意見聴取通知書の送付
まず、出入国在留管理局から、本人宛に「意見聴取通知書」が送付されます。これには、意見聴取を行う日時と場所、そして取消の理由となる事実が記載されています。 - 意見の聴取
指定された日時に出頭し、入国審査官に対して自分の意見を述べ、有利な証拠を提出する機会が与えられます。この際、代理人(弁護士や行政書士など)と共に出頭することも可能です。正当な理由なく出頭しない場合、意見聴取なしで取消が決定されることがあります。 - 在留資格の取消決定
意見聴取の結果を踏まえ、法務大臣が最終的に在留資格を取り消すかどうかを決定します。
取消が決定された後の扱いは、その原因となった事由によって大きく2つに分かれます。
- 出国準備期間の付与
活動を行っていない(カテゴリー②)や住居地の届出違反(カテゴリー③)など、比較的悪質性が低いと判断された場合は、30日を上限とする出国準備期間が与えられます。この期間内に自主的に出国すれば、ペナルティ(上陸拒否期間)は科されず、将来の再入国の可能性も残されます。期間中、就労や行動の制限が課されることがあります。 - 退去強制
虚偽申請(カテゴリー①)など、悪質性が高いと判断された場合や、出国準備期間内に出国しなかった場合は、即時に退去強制の対象となります。退去強制されると、原則として5年間(リピーターの場合は10年間)日本に上陸することができなくなります。
雇用している外国人の在留資格取消を避けるために企業がすべきこと
外国人材を雇用する企業側も、従業員の在留資格が取り消されるリスクを理解し、適切な管理と対策を講じる責任があります。
- 在留資格と在留期間の管理徹底
採用時に在留カードの原本を確認することはもちろん、在留資格の種類、許可されている活動内容、在留期間の満了日を正確に把握し、管理台帳などで一元管理することが重要です。 - 退職時の手続きの周知
外国人従業員が退職する際には、14日以内に出入国在留管理局へ「所属機関に関する届出」を行う義務があることを本人に説明し、会社としても忘れずに行う必要があります。また、退職後の転職活動には「正当な理由」が必要であることや、3ヶ月以上活動しないと在留資格が取り消されるリスクがあることを丁寧に伝えましょう。 - 住所変更の届出確認
定期的な面談などの際に、引っ越しをした場合は速やかに役所で手続きをするよう促すなど、コミュニケーションを通じて届出義務の重要性を周知することも有効です。 - 不法就労助長罪のリスク
万が一、失踪した技能実習生など、在留資格が取り消されるべき状態の外国人を雇用してしまうと、企業側も**「不法就労助長罪」**に問われる可能性があります。これには「3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金」という重い罰則が定められています。採用時の身元確認は慎重に行わなければなりません。
まとめ
在留資格の取消制度について、その全貌をご理解いただけたでしょうか。最後に重要なポイントをまとめます。
- 制度の核心:在留資格の取消は、在留期間が残っていても、虚偽申請や在留状況の不良があれば行われる行政処分である。
- 主な取消事由:最も多いのは**「在留資格に応じた活動を3ヶ月以上行っていない」**ケース。ただし、**具体的な転職活動などは「正当な理由」**として認められる可能性がある。
- 届出義務の徹底:退職後の届出や、引っ越し後の住所変更届は基本的な義務。90日以上怠ると取消対象となる。
- 取消後の流れ:悪質性が低い場合は出国準備期間が与えられるが、虚偽申請などの場合は即時退去強制となり、5年間は再入国できない。
- 企業の責任:企業には従業員の在留資格を適切に管理する責任があり、違反者と知らずに雇用しても**「不法就労助長罪」**に問われるリスクがある。
在留資格取消制度は、ルールを守って真面目に活動している外国人にとっては、過度に恐れる必要のない制度です。しかし、そのルールを知らなければ、意図せず違反を犯してしまう危険性があります。この記事が、日本で働く外国人と、彼らを支える企業のご担当者様にとって、安定した在留を続けるための一助となれば幸いです。
自社の管理体制に不安がある、あるいは従業員が取消事由に該当するかもしれないなど、具体的な状況でお困りの際は、ぜひ一度、私たちビザ申請と入管業務の専門家である行政書士にご相談ください。
当事務所のサポート
当事務所では、就労ビザと在留資格管理に関する豊富な経験と専門知識を持つ行政書士が、お客様の状況を丁寧にヒアリングし、最適なサポートを提供いたします。
- 在留資格取消に関するコンサルティング
- 意見聴取手続きへの同行・主張書面の作成
- 退職後の在留資格変更許可申請(「特定活動」など)の代行
- 企業向け外国人材の在留資格管理に関する顧問業務
- コンプライアンス体制の構築サポート
- 各種届出(所属機関に関する届出等)の代行
「従業員に意見聴取通知書が届いてしまった」「退職後の手続きが分からない」その不安や疑問を抱えた最初の段階で、ぜひ一度、私たちにご相談ください。法令遵守を徹底し、企業と外国人材の双方が安心して事業・活動に取り組めるよう、強力にサポートいたします。



