技能実習から就労ビザ変更の条件
目次
はじめに
アイ・ビー飛鳥行政書士法人です。
「熱心に働いてくれた技能実習生に、実習終了後も会社に残って活躍してほしい」
「本人も日本での就労を強く希望しているが、何か方法はないだろうか?」
多くの企業経営者様、人事担当者様から、このような切実なご相談を毎日のようにいただきます。インターネットで検索すると、「技能実習からのビザ変更は制度の趣旨に反するため不可能」という情報がある一方で、「就労ビザへの変更が許可された事例」を紹介するページも見受けられます。一体、どちらが正しいのでしょうか。
結論から申し上げますと、技能実習から一般的な就労ビザ(「技術・人文知識・国際業務」など)への変更は、原則として認められていません。しかし、極めて例外的かつ厳しい条件をクリアした場合にのみ、許可される道が存在します。
この記事では、ビザ専門の行政書士として、技能実習から就労ビザへの変更に関する「原則」と「例外」の全てを、網羅的かつ徹底的に解説します。この記事を最後までお読みいただくことで、なぜ変更が難しいのかという根本理由から、例外的に許可を得るための具体的な5つの条件、そして多くの企業にとって最も現実的な代替案である「特定技能」ビザへの移行まで、明確に理解することができます。
大原則:なぜ技能実習からのビザ変更は認められないのか?
まず、なぜ技能実習から他のビザへの変更が原則として認められないのか、その根本的な理由を理解することが不可欠です。それは、技能実習制度が持つ本来の目的に起因します。
技能実習制度の目的
技能実習制度は,開発途上国又は地域等の青壮年を一定期間受け入れ,我が国で培われた技能,技術又は知識を修得,習熟又は熟達することを可能とし,当該青壮年が帰国後に我が国において修得等した技能等を活用することにより,当該国又は地域等の発展に寄与する「人づくり」に貢献する制度である。
(入国・在留審査要領より)
要約すると、この制度は日本の優れた技術を開発途上国に移転するための**「国際貢献」が目的であり、日本の労働力不足を補うための制度ではありません。あくまでも、日本で学んだ技術や知識を母国に持ち帰り、母国の経済発展に貢献してもらうこと**が前提となっています。
そのため、実習を終えた技能実習生は「帰国」することが大前提であり、そのまま日本に残り続けて就労する「ビザ変更」は、制度の趣旨に真っ向から反する行為と見なされるのです。出入国在留管理庁(以下、入管)が変更申請に極めて慎重な姿勢を示すのは、この制度の根幹を守るためなのです。
【超例外的措置】就労ビザへの変更が許可される5つの必須条件
原則は「不可」である一方、入管は「技能実習制度の趣旨に反しない」と判断できる特定のケースにおいてのみ、例外的に就労ビザへの変更を認めることがあります。これは、単に人手が足りないから、本人が優秀だからといった理由では決して認められません。
変更が許可されるためには、以下の5つの条件をすべて満たす必要があります。これは非常にハードルが高く、該当するケースは極めて限定的です。
会社の事業内容が「技能実習生の受け入れ」に関するものであること
大前提として、変更後の雇用主(契約機関)は、監理団体や実習実施者など、技能実習生の受け入れに直接関わっている企業でなければなりません。技能実習と全く関係のない企業へ転職する形でのビザ変更は想定されていません。
業務内容が「後輩技能実習生への指導」であり、母国への技術移転に貢献するものであること
これが最も重要なポイントです。変更後に従事する業務は、技能実習生として行っていた現場作業そのものであってはなりません。
許可されるのは、技能実習で習得した高度な技術や知識を活かし、新たに日本へやってくる後輩の技能実習生たちを指導・監督する立場の業務です。例えば、以下のような活動が想定されます。
- 実習実施者(現在の会社)において、後輩技能実習生たちの現場指導員やトレーナーを務める。
- 監理団体において、入国後講習の講師として、自身の経験を元に技術指導や言語指導を行う。
このように、本人が指導者となることで、後輩たちがより効率的・効果的に技術を習得でき、結果として母国への技術移転がさらに促進される、という論理が成り立つ必要があります。「単なる労働力の継続確保」ではなく、「技術移転の質の向上」に繋がる活動でなければ、許可はされません。
日本語能力試験(JLPT)で「N2」相当以上の高い日本語能力を有すること
後輩を指導・監督するためには、複雑な作業指示や安全管理に関する注意喚起、業務報告などを正確に行える高度な日本語能力が不可欠です。そのため、一般的なビジネス会話レベルとされる日本語能力試験N2以上の能力が求められます。
これは、通常の「技術・人文知識・国際業務」ビザを新規で取得する際には必ずしも求められない要件であり、技能実習からの変更がいかに厳しい基準で審査されるかを示す一例と言えます。
指導対象となる技能実習生が多数在籍し、十分な業務量が確保されていること
指導・監督業務を主たる職務とする以上、その業務が恒常的に発生する環境でなければなりません。例えば、指導対象となる後輩の技能実習生が社内に数名しかいない場合、「指導業務だけで一人分の給与を支払うのは不自然ではないか」「実態は現場作業員ではないのか」と疑われます。
したがって、変更を申請する企業は、多数の技能実習生を継続的に受け入れている実績があり、指導専門のポジションを設けるだけの十分な業務量が見込まれることが必要です。
技能実習計画上の到達目標を達成していること
これは当然の条件ですが、そもそも技能実習生として課せられていた技能実習計画をきちんと修了し、目標レベルに到達していることが大前提となります。計画を達成できなかった人材が、後輩を指導する立場に就くことはあり得ません。
【ケース別】変更の可能性と「合理的理由」の壁
上記の5つの条件を、具体的なケースに当てはめて考えてみましょう。
- 許可の可能性があるケース(モデルケース)
- 企業: 従業員500名、常時50名以上の技能実習生を受け入れている大手製造業。
- 申請者: 技能実習3号を優秀な成績で修了。日本語能力試験N2に合格済み。
- 業務内容: 新たに配属される10名の技能実習生チームの「指導員」として採用。現場でのOJT、安全教育、日本語での日報管理を担当する。現場作業には原則として従事しない。
- 理由: 申請者を指導員とすることで、新人実習生の技術習熟度が飛躍的に向上し、より高度な技術を母国に持ち帰らせることが可能になるため。
- 不許可になる典型的なケース
- ケース①(業務内容の問題): 「人手不足なので、今の現場作業をそのまま続けてほしい」→ これは典型的な不許可パターンです。業務内容が技術移転の促進に繋がっていません。この場合は後述する「特定技能」を検討すべきです。
- ケース②(業務量の問題): 「社内の技能実習生は2人だけだが、その2人の面倒を見てほしい」→ 指導業務の量が少なく、主たる業務が別にある(現場作業)と判断され、不許可となる可能性が非常に高いです。
- ケース③(日本語能力の問題): 「仕事は真面目だが、日本語は日常会話レベル(N4程度)」→ 指導・監督業務を遂行する能力に疑義ありと判断されます。
さらに、申請時には「なぜ帰国するという当初の予定を変更する必要が生じたのか」という合理的な理由を説明する文章(理由書)の提出が極めて重要になります。「当初は予定通り帰国するつもりだったが、会社から指導員としての熱心な勧誘を受け、自身の経験を後輩に伝えることで母国に更に貢献できると考え、熟慮の末に決断した」といった、説得力のある経緯説明が不可欠です。
最も現実的な選択肢:「特定技能」ビザへの移行
ここまで読んで、「5つの条件をクリアするのは、うちの会社では現実的ではない…」と感じられた担当者様も多いのではないでしょうか。実際に、上記の例外規定に該当するケースはごく僅かです。
しかし、諦める必要はありません。優秀な人材に残り続けてもらうための、より現実的で広く開かれた道が用意されています。それが「特定技能」ビザへの変更です。
なぜ「特定技能」への変更は認められやすいのか?
「特定技能」は、深刻な人手不足に対応するため、特定の産業分野において即戦力となる外国人材を受け入れるために創設された在留資格です。その目的は「労働力の確保」であり、技能実習の「国際貢献」とは根本的に異なります。
そのため、技能実習の趣旨(帰国前提)と矛盾せず、むしろ技能実習で培ったスキルを活かして日本の産業に貢献することが推奨されているため、技能実習からの移行がスムーズに認められているのです。
「特定技能」へ移行する最大のメリット:試験の免除
通常、「特定技能1号」ビザを取得するには、「日本語試験」と「技能試験」の両方に合格する必要があります。しかし、技能実習2号を良好に修了した者は、これらの試験が免除されるという大きなメリットがあります。
- 日本語試験:免除
- 技能試験:技能実習時の職種・作業内容と、特定技能で従事する業務に関連性が認められれば免除
つまり、技能実習で真面目に3年間(2号修了まで)働いてきた人材であれば、無試験で「特定技能」ビザに変更し、最長5年間、日本で働き続けることが可能になるのです。
対象となる14の産業分野
特定技能へ移行できるのは、以下の14の分野です。自社の事業が該当するかご確認ください。
- 介護
- ビルクリーニング
- 素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業(※3分野が統合)
- 建設
- 造船・舶用工業
- 自動車整備
- 航空
- 宿泊
- 農業
- 漁業
- 飲食料品製造業
- 外食業
(※2024年4月時点の情報。今後分野が追加・変更される可能性があります)
技能実習からの変更手続きは、通常のビザ変更とは異なる専門的な知識が求められます。しかし、就労ビザへの変更に比べれば、要件は格段にクリアしやすく、多くの企業にとって現実的な選択肢と言えるでしょう。
注意点:一度帰国してからの呼び戻しも審査基準は同じ
「それなら、一度ルール通りに帰国させてから、すぐに就労ビザ(技術・人文知識・国際業務)で呼び戻せばいいのでは?」と考える方もいらっしゃいますが、これは解決策になりません。
技能実習終了直後に、同じ企業が同じ人物を就労ビザで呼び戻すための在留資格認定証明書交付申請を行った場合、入管は「実質的に国内での変更申請と同じ」と判断します。そして、前述した5つの厳しい条件に当てはめて審査を行います。技能実習の「帰国前提」という原則を潜脱する行為と見なされるため、許可のハードルは全く下がりません。
まとめ
- 原則の再確認
- 技能実習の目的は「母国への技術移転」。そのため、終了後のビザ変更は原則として認められない。
- 例外的な就労ビザへの道
- 「後輩指導」の業務内容、「N2以上」の日本語能力など、極めて厳しい5つの条件を全て満たす場合のみ、変更の可能性が生まれる。該当ケースは非常に少ない。
- 最も現実的な解決策
- 技能実習2号を良好に修了していれば、試験免除で「特定技能」ビザへ移行できる。これが多くの企業と実習生にとって最適な選択肢となる。
- 安易な判断は禁物
- 一度帰国させてからの呼び戻しも、審査基準は国内での変更と同じく厳しい。
技能実習を終えた優秀な人材に、引き続き日本で活躍してもらう道は確かに存在します。しかし、その道筋を誤ると、不許可という結果を招き、企業にとっても本人にとっても大きな損失となりかねません。自社の状況がどのパターンに当てはまるのか、どの選択肢が最適なのか、安易に自己判断せず、まずは専門家にご相談ください。
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当事務所では、技能実習からのビザ変更に関する豊富な経験と専門知識を持つ行政書士が、お客様一社一社の状況を丁寧にヒアリングし、最適な解決策をご提案いたします。
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